北朝鮮のTLDの「.kpドメイン」の流出事件と北朝鮮メデイアのプロパガンダ戦略から見えたもの

2016年9月19日、米国のIT専門メデイアTechcrunchから興味深いニュース「北朝鮮は、28と決して多くはないが、すべてのTLD(note1)の「.kpドメイン」(note2)を偶然にもうっかり漏らした」が届いた。

 このニュースは、同社の日本語サイト (note3)がリンクも含め原文に即して訳しており、筆者として改めて仮訳は行わない。しかし、そこで見えてきた北朝鮮のITの進捗度合いは、軍事面や核装備の先進的な取り組みに比して、極めて遅れた内容であることは間違いない。

 他方、国営メデイアや大手国営企業の動向は極めてITプロパガンダに満ち溢れた内容であった。さらに問題と思えるのは、北朝鮮の友好国の拡大およびIS等と同様の情報化戦略であるし、この問題に対するICANN (note4)(note4-2)等ドメイン管理国際機関の評価のあり方の問題でもある。

 筆者は、IPアドレスに関するわが国のICANNの窓口であるJPNIC (note5)の関係者であることから、改めてこの問題の根深さを感じた次第である。

 今回のブログは、そのうちで北朝鮮のTLD:.kpの個別サイトへのアクセスを実際に行って感じたことを解説を織り込みつつ述べる。

1.Techcrunchの記事

原文及び訳文を読まれたい。なお、今回取り上げる28のTLD一覧は、カリフォルニア州・サンフランシスコのコンピュータ・ネットワーク会社「Uber Engineering 」の技術者今回の漏洩事件をフォローしたマシュー・ブライアント(Matthew Bryant)がまとめたのもである。

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(1).kpドメインがついたURL企業等の検索結果

個別の説明する前に、以下の企業等のウェブサイトにアクセスする場合の留意点を簡単に述べておく。

①アクセス時間がやたらかかる。わが国の常識の10倍程度は見ておく必要がある。じっと我慢することが必要で、徳川家康の心境である。

また、PC自体の普及率はアジアの国の中でも後進国であろう。以下の”cooks.org.kp”の写真を見てほしい。北朝鮮のPCの個人保有率はいかほどか?

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② 時間をかけて最終的に閲覧できたサイト画面は焼き付けた。

③ 北朝鮮のサーバー・ウェブサイト一覧の解析を行っている”North Korea Tech org”の情報にもとづき補完した。同サイトは各企業等のサーバーが北朝鮮内かその他の国という観点から調査している。それで見ると今回ブライアント氏が調べた流出した.kpドメインを持つウェブサイトがすべてとは思えない。更なる専門的調査が必要であろう。なお、同orgの情報は 2014年7月17日最終更新でやや古いが、貴重な内容ではある。(note6) なお、同orgはHPで本漏洩事件についても言及している。

2.個別サイトの概要

会社・団体名等は公式なものではない。筆者の判断で訳した。

(1) 高麗航空の公式サイト(airkoryo.com.kp)

直接はアクセスできなかった。以下の中国の航空チケット購入サイトで予約は可能である。このサイトで見ると高麗航空の保有機数は40機と記されている。Wikipedia等一般的な解説と異なる。 %e4%b8%ad%e5%9b%bd%e6%97%85%e8%a1%8c%e3%83%81%e3%82%b1%e3%83%83%e3%83%88%e4%bc%9a%e7%a4%be

(2) 朝鮮調理協会(cooks.org.kp) のレシピ集サイト %e8%aa%bf%e7%90%86%e3%83%ac%e3%82%b7%e3%83%94

(3) 対外文化交流委員会サイト(Committee for Cultural Relations with Foreign Countries)(friend.com.kp)

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 (4) ピョンヤン・ラジオ放送(gnu.rep.kp)

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 なお、同放送は日本を含め近隣国への当該国の言語の放送専門サイトである。

(5) 朝鮮社会科学協会サイト「チュチェ」(kass.org.kp)  (note7)  2%e7%84%a1%e9%a1%8c

 日本語版サイト

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(6) 朝鮮中央通信(Korea Central Agency)(kcna.kp)

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   朝鮮中央通信のウェブサイトの最近時の記事を見ておこう。同サイトは英語、中国語、スペイン語および日本語でほぼ同一で日々更新されていると思える。

(7) 朝鮮国際青少年旅行会社(kiyctc.com.kp) 

%e9%9d%92%e5%b0%91%e5%b9%b4%e6%97%85%e8%a1%8c%e4%bc%9a%e7%a4%be (8) 朝鮮人民保険会社(Korean People Total Insurance Company)(knic.com.kp)

会長挨拶、取締役会、組織等の説明がある。

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(9) 朝鮮教育基金(Korea Education Fund)(korelfund.org.kp)  %e6%95%99%e8%82%b2%e5%9f%ba%e9%87%91

(10)朝鮮高齢者医療基金(Korea Elderly Care Fund) (Korelcfund.org.kp)

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(11)平壌国際フィルム祭(Pyongang International Film Festival)(korfilm.co. kp)  %e6%9c%9d%e9%ae%ae%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%ab%e3%83%a0%e4%bc%9a%e7%a4%be

(12)国家海事監督局(Maritime Administration of Korea) (ma.gov.kp) 

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同局の機能については、国家海事監督局のHP開設のブログ記事「北朝鮮、「国家海事監督局」HP開設 (2015年5月26日 「聯合ニュース」)」を参照されたい。

英語版

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 (13) アクセス不可サイト(无法访问)(masikryong.com.kp)

(14) 我的国家、朝鮮国家コンピュータセンター(Naenara) (naenara.com.kp)

ネナラ(내나라、Naenara)は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の朝鮮コンピューターセンター(KCC)が2004年より運営しているポータルサイトである。「ネナラ」は朝鮮語で「我が国」の意味をもつ。「革命活動誌」と題した金正恩朝鮮労働党委員長の活動記録や国内のニュース、政府声明、政治体制・産業貿易・文化・観光地などの紹介が載せられている。またネットショップ「E-shop」も設置されている。 言語は朝鮮語をはじめ英語・フランス語・スペイン語・ドイツ語・ロシア語・中国語・日本語・アラビア語の9言語に対応している。かつては「www.naenara.kp」のURLで運営されていたが、2011年以降は「www.naenara.com.kp」のURLでサービスが提供されている。 2012年4月現在のURLは「naenara.com.kp」(Wikipedia から一部抜粋)

(15) 朝鮮旅行局(Korea Turism)(nta.gov.kp) 

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  (16) アクセス不可サイト(无法访问) (portal .net.kp)

(17) アクセス不可サイト(无法访问)(rcc.net.kp)

(18) 朝鮮の声(Voice of Korea)(rep.kp) 

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 (19) アクセス不可サイト(无法访问)(repkp)

(20) 朝鮮労働新聞(rodong .rep.kp)

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(21) 金日成総合大学(Kim II Sung University)(ryongnamusan.ed.kp)%e9%87%91%e6%97%a5%e6%88%90%e7%b7%8f%e5%90%88%e5%a4%a7%e5%ad%a6

  (22) 朝鮮スポーツ(スポーツ専門サイト)(sdprk.org.kp) %e6%9c%9d%e9%ae%ae%e3%82%b9%e3%83%9d%e3%83%bc%e3%83%84

 (23) アクセス不可サイト(无法访问)(silibank.net.kp)

以下の内容はあくまで筆者の推測である。

Silibankは中国の「實利銀行」である。北朝鮮の数少ないインターネット・ゲートウェイの1つである。2001年10月8日以降、インターネットのemail送受信、アクセスが北朝鮮内からsilkbank経由で可能となった。

実際、本文(11)で述べた国家海事監督局のemail アドレスを見ると「E-mail: mab@silibank.net.kp 」と表示されている。他方のゲートウェイとしては、(14)朝鮮旅行局の場合は「nta@star-co.net.kp」と表示されている。

このようなインターネット網だけ見ても、中国の北朝鮮との深いかかわりが伺える。

(24) アクセス不可サイト(无法访问) (star-co.net.kp)

(25) アクセス不可サイト(无法访问) (star-di.net.kp)

(26) アクセス不可サイト(无法访问) (star-co.net.kp)

(27) アクセス不可サイト(无法访问) (star-edu.kp)

(28)アクセス不可サイト(无法访问) (star.net.kp)

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 (note1) TLD(トップレベルドメイン)とは、インターネットドメイン名を構成する要素のうち、「.」(ピリオド、ドット)で区切られた最も右にある要素のこと。最も上位の階層における識別名を表しており、「www.example.com」の「com」の部分がこれにあたる。

ドメイン名は実世界の住所のように階層構造になっており、各階層の識別名を「.」で区切って並べて表記する。並び順は末尾(右)が最上位で先頭(左)が最下位であり、末尾の識別名のことをトップレベルドメインという。トップレベルドメインは大きく分けて、用途や組織種別などに応じて設置されたgTLD(generic TLD:汎用TLD)と、国・地域ごとに割り当てられたccTLD(country code TLD:国コードTLD)、歴史的経緯で残っている特殊なTLDに分類される。(IT用語辞典から一部抜粋)

(note2) .kpは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国別コードトップレベルドメイン (ccTLD) 。IANAの情報によると2007年9月24日にルートサーバに登録された。

登録時はDNSサーバーがドイツにあり、ホスト名は汎用JPドメインのようにサーバー名の直下に.kpが付く形を取っていたが、2010年後半に一度利用不可能になった。

その後、2011年初頭に北朝鮮政府がタイのLoxley Pacific社とStar JVを設立、再度利用可能になった。この際、新たにセカンドレベルドメインを制定、.com.kpや.edu.kpといったドメイン構成に刷新している。(Wikipediaの解説から引用)。

また、この件で2011年1月18日付けAFP通信(日本語版)は「北朝鮮のkpドメインが復活、オンライン進出再開か」と報じている。同記事において「朝鮮コンピュータセンター(Korea Computer Center:Naenara)」、「対外文化交流委員会サイト」、「朝鮮中央通信」,などサイトがオンラインになったことや、同時に、北朝鮮が「ツイッター」や「YouTube」の公式アカウントを開設した」旨報じている。

(note3) Techcrunchは中国語版もある。内容は、英語版や日本語版とまったく同一である。英字標記、URL表示とリンクが可能となっている。本ブログの.kpドメインの訳語を記載する上で参考とした。このリンク時のアクセススピードは心なしか早い気がする。

なお、「朝鮮の声」(9カ国語)をアクセス不可サイト(无法访问)としているがこれは誤りであり、アクセス可である。

(note4) ICANN組織の解説(JPNICサイトより抜粋)

ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)は、インターネットの各種資源を全世界的に調整することを目的として、 1998年10月に設立された民間の非営利法人です。 (本拠地は米国カリフォルニア州ロサンゼルス)

icann-org-20160104

(note4-2)米国政府がこれまで重要視してきたインターネットの重要資源(IPアドレス・ドメイン名・プロトコル番号)の監督権限を放棄した旨のニュースがJPNICから届いた。詳しくはJPNICのニュース文や10月3日に発刊されるメールマガジン臨時号を参照されたい。以下、要旨等を抜粋する。

今後は、特定の政府でないマルチステークホルダー体制すなわちICANNに代わりIANA機能(「Internet Assigned Numbers Authority」の略。南カリフォルニア大学情報科学研究所(ISI)のJon Postel教授が中心となって始めたプロジェクトグループで、ドメイン名、IPアドレス、プロトコル番号など、インターネット資源のグローバルな管理を 行っていました。2000年2月には、ICANN、南カリフォルニア大学、およびアメリカ政府の三者の合意により、IANAが行っていた各種資源のグロー バルな管理の役割はICANNに引き継がれることになりました。現在IANAは、ICANNにおける資源管理、調整機能の名称として使われています。)を運営する組織「Public Technical Identifiers(PTI)」を設立、PTIはICANNの子会社として運用委託を受けることになる。またPTIの設立により「ドメイン名に関するポリシー政策の場であるICANN」と「IANA機能の運用組織(従来はICANN)」が別組織となることで、ドメイン名に関するポリシー策定と運用の独立性が保たれるなどが指摘されている。

さらに、IANAに関する知的財産権は、ICANNからIANA機能運営者とは独立したIETF Trustに移転することになる。

(note5)一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンターの役割、ICANN等とのかかわり解説

(note6) 英国に本部をおく国際ドメイン管理会社Nominate comの北朝鮮内でのドメイン登録費用の解説サイトを見ると年間32900円である。

(note7) 北朝鮮の政治は,主体思想(チュチェ思想:北朝鮮憲法では「人間中心の世界観であり人民大衆の自主性を実現するための革命思想」(第3条)と規定)及び先軍思想を基礎とし,朝鮮労働党の指導の下にすべての活動を行う(第11条)とされている。(外務省: 北朝鮮基礎データ)から一部抜粋。

Last update :October 1,2016

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